世界的にインフレ→金利上昇という流れが起き、日本にも波及、長期金利の上昇傾向が見られます。住宅ローン金利も全期間固定や10年固定などで上昇しました。そのためか最近では金利上昇に関する問合せ(や取材)が増えています。ここでは住宅ローンの金利上昇について考えてみます。

住宅ローン金利はどのように決まるのか

ここではまず、住宅ローン金利がどのように決まるのかを整理します。これが分からないと、金利上昇についての考え方も正しく理解できないからです。

住宅ローンは世の中の金利の影響を受けて決まりますが、【変動金利】タイプと【全期間固定金利】タイプでは、金利の決まり方が違います。
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今上がっているのは全期間固定金利などですが、それは長期金利が上がっているからです。長期金利は具体的には10年もの国債の金利などのことですが、この金利は本来、市場が決める(需要と供給で決まる)もの。しかしマイナス金利政策の導入後は日銀のコントロール下にあると言えます。直近の長期金利の上昇は、日銀のコントロールの限界が来て政策の変更が行われるのではないかと考える人が多くなったという、市場の反応、という理解でよいでしょう(上がったとはいえ、まだ日銀のコンロトール下にはあると言えます)。

住宅ローン金利は上昇していますが、それは全期間固定金利などであり、変動金利には変化が見られません。これは短期金利が上がっていないためです。短期金利は元々、日銀がコントロールするものです。短期金利の代表的なものとして短期プライムレートというのがありますが、某銀行の短期プライムレートは1.475%で10年以上変わっていません。なお、図に書いた「基準金利」と「金利優遇」については、下の方で説明します。

変動金利は上がらないのか?

では変動金利は今後も上がらないのか?一口に「変動金利が上がる」といっても実は2つのパターンがあります。それを理解するために、ここではまず住宅ローンの金利には「定価の金利」と「値引後の金利」があるというお話をしておきます。

今、某大手銀行の変動金利(の最優遇金利)は0.375%ですが、これは「値引後の金利」です。「定価の金利」は2.475%ともっと高い値でこの定価の金利のことを「基準金利」や「店頭金利」と呼びます。基準金利(定価)から金利の優遇(値引き)があり、適用金利(値引後の価格)が決まるということです。

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変動金利の基準金利は短期プライムレートなどの短期金利と連動しますが、金利優遇については「金融機関同士の競争」などの影響を受けます。

変動金利の金利上昇は2パターンが考えられる

定価の金利(基準金利)-値引き(金利優遇)=実際の金利という関係を踏まえると「変動金利が上がる」という場合、2つのパターンがあるということが理解できます。
1)「基準金利」(定価)が上がるというパターン
2)「金利優遇」(値引き)が小さくなるパターン
の2つがあるわけです。

1.基準金利が上がる場合

変動タイプの住宅ローン金利が上がる1つ目の可能性は「基準金利」が上がるというパターン。某大手銀行では変動金利の基準金利2.475%ですが、これがたとえば2.575%や3.000%に上がるということです。

ただ、この2.475%という値は2009年末ごろから変わっていません。2022年5月時点で13年程度変わっていないということです。現在のマイナス金利政策がスタートしたのは2016年2月頃からですが、そのずっと前から2.475%だったわけです。つまり、仮にマイナス金利政策が終わったとしてもすぐに2.475%である基準金利が上がるとは考えられません。今、変動金利タイプの金利が上がっていない理由はここにある、と言ってもいいでしょう。

なお、2.475%だった基準金利が仮に2.575%に上がるとすれば、その銀行で変動金利を借りている全ての人の金利が0.1%上がってしまうことになります。この場合「全ての人の金利が上がってしまう」というのがポイント。次に紹介するパターン2の「金利優遇が小さくなる場合」と異なる点なので覚えておいてください。

2.金利優遇が小さくなる場合

変動タイプの住宅ローン金利が上がる2つ目の可能性は「金利優遇」が小さくなるというパターン。某大手銀行の過去6年ほどの「1月」の基準金利、金利優遇、適用金利の関係がどうなっていたかを見ると次のようになります。

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先に述べたように、基準金利は変わっていません。金利優遇が年々大きくなり、適用金利が下がってきていることが分かります。基準金利は短期プライムレートなどの短期金利と連動するようになっているのでずっと変化がないというのは何度か述べました。金利優遇については「金融機関同士の競争」の影響が大きいです(値下げ競争をしているという感じです)。

で、ここで大事なのは、変動金利の場合一度決まった「金利優遇」は原則として35年間ずっと変わらないということ(ややこしいのですが変動金利の金利優遇はずっと変わらないのですが10年固定などでは固定期間が終わると金利優遇幅が変わる場合もあります)。住宅ローンのお金を借りる契約をする際に「あなたの金利優遇は●●です」という契約を交わしますので勝手に変えることはできません。

つまり、6年前、0.625%の金利で借りた人、つまり金利優遇が▲1.85%だった人、の金利優遇は今でも▲1.85%のままですし、今後も▲1.85%のままです。銀行の都合で▲1.85%の優遇幅を▲1.5%などに小さくすることはできません。逆にいえば、この銀行の変動金利は今、0.375%ですが、この人の適用金利は今も0.625%のままということでもあります。

では「金利優遇が小さくなって金利が上がる」というのはどういう状況なのか。たとえば1年後に住宅ローンを借りる人の金利優遇が▲1.90%まで小さくなっていたとします。基準金利2.475%が変わっていないとしたら、2.475%-1.90%=0.575%が適用金利になるということです。今の0.375%よりも金利は上がっています。

しかし、金利が上がったといっても、今0.375%で借りている人の金利は上がりません。なぜなら基準金利は上がっておらず、一度決まった▲2.10%という金利優遇も変わらないからです。

このように、金利優遇が小さくなって金利が上がる、という場合、不利益を受けるのは未来にローンを組む人であって、今借りている人の住宅ローン金利には影響が出ないと考えるのが一般的ということになります。

金利優遇が年々大きくなってきたのは金融機関同士の競争の結果です。昔、牛丼の値下げ合算が行われたことがありました。しかし値下げ競争はいつの間にか終わりました。銀行の値下げ合算もいつか終わります。そうなると金利優遇幅が小さくなり、金利が上がるということは考えられます。しかし、その場合でも既に変動金利を組んでいる人には影響が出ないはずです。

※一度決まった「金利優遇」は原則として35年間ずっと変わらないと書きましたが、「原則として」と書いたとおり、金利優遇が変わる場合もあります。それは住宅ローンの延滞をしてしまったケース。延滞すると金利優遇がゼロになり、適用金利も2.475%になってしまうことがあります(契約書に書かれています)。

まとめ

変動金利の金利が上がるというのは2パターンの可能性がある。1)基準金利が上がるパターンと2)金利優遇が小さくなるパターンの2つ。1.基準金利が上がる場合は変動金利を借りている人全ての金利が上がるが、現在の2.475%というのはマイナス金利政策前からずっと動いていない(13年程度動いていない)ものなので、すぐにあがることは考えにくい。

金利が上がるとしたら、2の金利優遇が小さくなる、という可能性の方が大きい。この場合、既に変動金利を借りている人の金利は上がらず、未来に借りる人だけが影響を受ける。

金利の予測で住宅ローンを決めるのは危険

今回、住宅ローン金利は上がるのか、について述べてきましたが、金利の予測に基づく決定は危険です。家計が金利上昇リスクを取ってよい家計なのかどうか、というのをしっかり考える必要があります。もし家計の状況などから金利上昇リスクを取るのは危険だと思うなら、グッとこらえて全期間固定金利を選ぶべきです。私は競馬が大好きなギャンブラーでもあり、デイトレードを行う投機家でもありますが、住宅ローンをギャンブル、投機の対象にすべきではないと考えます。

※金利上昇リスクを取ってよい家計かどうかの診断は有料コンサルティングにてアドバイスできます。

©アルトゥルFP事務所 井上光章

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