10年固定ランキング2022年11月 正しい10年固定の選び方

住宅ローンで人気の10年固定金利。しかし、この10年固定、我々住宅ローン専門家から見て落とし穴になっている点があります。それは「11年目以降の金利」がどうなっているのか、です。このポイントを検証せずに見た目の金利の低さだけで借りてしまう人も多いです。こんなはずじゃなかったのに、とならないよう、十分に注意して選ぶ必要があります。2022年11月の10年固定ランキングを基に、正しい10年固定の選び方を考えていきます。

10年固定金利ランキング(2022年11月)

大手銀行やネット銀行など全国共通で使える銀行のうち、表面上の金利を低い順に並べた10年固定ランキングは次のようになっています(2022年11月の金利)。

10年固定ランキング2022年11月
10年固定金利ランキング(2022年11月)

ランキング1位は三菱UFJ銀行の10年固定で0.830%。三井住友銀行0.930%、ソニー銀行0.950%、PayPay銀行(ジャパンネット銀行)とイオン銀行が0.990%でその後に続きます。

そもそも10年固定金利とは

ここでいったん、10年固定金利とは何かについて解説をしておきます。これが分からないと正しい住宅ローン選びができないからです。

住宅ローンの金利種類には大きく3種類が存在します。変動金利、全期間固定金利、固定期間選択型の3つです。

一番分かりやすいのは全期間固定金利で、これはローンを借りる時に返済期間終了まで(たとえば35年)の金利が決まっているものです。金利が上昇してしまうリスクがないという安心感があります。変動金利は6カ月ごとに金利が変わります。金利上昇リスクがある分、金利はとても低いです。固定期間選択型は、今回のテーマ「10年固定」や「5年固定」、「20年固定」などが該当します。

たとえば10年固定は住宅ローンを35年返済で借りたとして、最初の10年間は金利が確定しますが、11年目以降はその時にならないと金利は分かりません。つまり、金利上昇リスクがあります。変動金利の特殊なパターンと理解すればよいでしょう。なお、10年経過をする直前に、何も申し出をしないと自動的に11年目からは変動金利タイプになります。

住宅ローン10年固定ランキングの落とし穴

10年固定を選ぶ際ランキング上位に来る銀行を候補にすればよいのか、というと、そう単純には行きません。それは11年目以降の金利を考えていないからです。「当初10年は金利が固定されるが11年目以降の金利はその時にならないと分からない」というのが10年固定の特徴でした。11年目以降の金利は、確かに今は分からないのですが、それでも、その時にどのように金利が計算されるかのルールは決まっています。

たとえば、10年固定ランキング1位だった三菱UFJ銀行を例に考えてみます。当初10年の金利は0.830%でした。11年目以降はどうなるか、のルールをHPで調べてみると、「金利優遇が▲1.50%になる」と書いてあります。

ここで、住宅ローン金利の基本的なルールの解説をしておきます。住宅ローンの金利は「定価の金利」と、「値引き後の金利」の2つがあります。定価の金利のことを「基準金利」とか「店頭金利」と呼びます。この「基準金利(店頭金利)」から「金利優遇」を引いて、実際の金利「適用金利」が決まるというルールです。つまり、

基準金利(定価の金利)-金利優遇(値引き)=適用金利(値引き後の金利)

という関係です。

さて、三菱UFJの10年固定の話に戻ります。11年目以降は金利優遇が▲1.50%(値引きが1.5%)になるというのは現時点で決まっています。先に記載した3つの要素からなる関係式のうち「金利優遇」幅(値引き幅)は分かりましたので、あとは「基準金利」が分かれば、11年目以降の実際の金利も分かるはずです。10年経過後の基準金利についてはその時にならないと分かりませんが、ここでは今と同じ値と仮定をします(この後、他の銀行と比較を行うためです)。

11年目以降、変動金利を選ぶとし、その時の基準金利が今と同じと仮定しましたが、その基準金利は三菱UFJのHPを調べると2.475%になります(なお、この2.475%という基準金利は過去10年以上同じです)。

そうするとこの仮定においては、11年目以降の適用金利(変動金利)=2.475%-1.50%=0.975% ということになります。変動金利は0.3%台が多くなっている今、0.975%というのは高い。 当初10年の0.830%というのは他と比べて確かに安いのですが、11年目以降は変動金利で0.975%と高い金利になってしまうという条件もついているのです。この11年目以降の金利がどうなるか、をきちんと計算しないまま、見た目の金利の安さだけで飛びつくと、10年固定金利は失敗します。住宅ローンの金利ランキングだけで選んではならないということです。

10年固定を正しいランキングに並び替えると

先のランキング表に、11年目以降の金利を加えたのが次の表です。

11年目以降の金利も加えた10年固定ランキング(2022年11月)

メガバンクを中心に基準金利は2.475%というところが多いですが、ソニー銀行や楽天銀行、新生銀行のように1%台のところもあります。11年目以降の金利優遇については各銀行のHPに数値が記載されており、それを上表にまとめました。

さて、この条件を基に、借入期間35年、借入額5,000万円を借りた場合のランキングを作成しました。35年間の総返済額に融資手数料や保証料を加えたトータルコストの低い順番に並び替えています。

正しい10年固定金利のランキング(2022年11月)

先ほどのランキングとガラリと入れ替わっているのが分かります。1位になったのはみずほ銀行。10年固定金利は1.20%と高いのですが、11年目以降の金利優遇は▲2.1%で、適用金利の仮定が0.375%になるためです。

2位の楽天銀行は、11年目以降の金利が0.537%と低くなることに加え、融資手数料が33万円と定額で安い(その他の銀行の多くでは、融資手数料は「融資額×2.2%」つまり110万円となる)というのも大きく貢献しています。

3位のイオン銀行は、10年固定の表面上の金利も0.990%と安く(4位)、11年目以降の金利も低い設計になっており、35年返済を考える人には良心的な10年固定の商品設計になっています。

10年固定ランキングの表面上の金利で1位だった三菱UFJはトータルコストでは4位。1位との差は120万円ほどあります。35年間返済をする前提ですが120万円の差というのは大きいのではないかと思います。

※なお、11年目以降の金利はあくまで基準金利が今と同じと仮定した場合の数値です。お得な銀行はどれかを探すには、そう仮定しないと比較ができないからそうしているだけです。実際の金利は10年経過してみないと分からない点にはご注意ください。

まとめ:10年固定金利の正しい選び方

10年固定金利を単純にランキング上位のものから選ぶというのは正しくありません。11年目以降の金利がどうなるかをきちんと計算する必要があります。また楽天銀行のように融資手数料が安いと本当のランキングでは上位に来ることもあります。11年目以降の金利の条件と融資手数料等まで考慮することが正しい住宅ローン選びには必要です。

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